Saturday, February 9, 2013

東大イノベーション政策研究センターでの発表資料

2月1日、東大イノベーション政策研究センターのセミナーでクリーンテックの現状についてお話させて頂きましたが、その際の資料をシェアさせて頂きます。多くの方に参加いただき、私にとりましても非常に楽しい機会でした。

要点としては下記のとおりです。

1.
クリーンテック投資は2006-2008年のバブル期をピークに減少傾向にある。ソリンドラの倒産、A123の中国企業による買収後、状況はより一層厳しくなってきている。

2.
現在の投資はシリーズC以降(開発後期)が多く、シード期(開発初期)のものは激減している。クリーンテック業界が今後成長してゆく上で、初期技術への投資が減っていることが大きな課題になっている。

3.
クリーンテック業界は新たなモデルを模索しているように見える。ドットコム、ソーシャルメディア型の「ベンチャー投資→上場」というパターンは成功しづらい。一方で、人口増加と資源枯渇はグローバルな長期トレンドであり、クリーンテックへの需要は増えてゆく。早い段階で大企業と提携しながら会社を発展させるなど、長期投資の枠作りが必要になってきているのではないか。

4.
日本で雇用を生み出すクリーンテックベンチャーを生み出すにはどうしたら良いか。明確な答えはないが、徐々に生態系を作り上げてゆくことが重要と考えられる。




クリーンテックブーム終焉?

A123の倒産以降、クリーンテック全体が厳しい状況にあることは以前ポストしましたが、現場レベルで「風向き」として感じていたものがデータで出てきました。私の今の見方は、ある意味ブームが完全に終焉して、長期投資が必要であること、ROI(投資に対するリターン)は思ったよりも高くないこと、最終製品はコモディティで更に既存のユーティリティーが高い参入障壁を築いているといった現実を受け入れてまででも投資したい会社だけが残っているのかなと思っています。一方で、Venture Capital投資→IPOというドットコムやソーシャルメディアで成功したモデルはクリーンテックでは成功しづらいことも明確になってきて、業界全体が本来あるべき姿に落ち着いてきたとも言えると思います。このあたりは、最近のBoston Globeの記事にも出ていました。

Clean Tech Groupのデータによると、初期技術は大幅に減少中。このデーターはPWCのレポートなどにも出ていますが、確実なトレンドとして目に見える形になってきました。
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また、Vantage Point(VC:ベンチャーキャピタル)が資金を集められず、クリーンテックファンドをあきらめるといったニュースもありました。Vantageはホワイトハウスとの関係も強く、クリーンテックブームの中心を担ってきたVCでもあります。

燃料電池自動車を巡る提携関係


燃料電池自動車を巡っての提携が盛んになっています。燃料電池自動車は、各社ともに2015年からの本格普及を目指していて、今後2年の開発へ向けリソースを集約させることが大きな課題になっています。日本の4大都市圏、米国のカリフォルニア州(LA都市圏とベイエリア)は2015年へ向けて水素インフラを立ち上げることが目標になっていて、カリフォルニアの水素ステーションは2016年までに68箇所(カリフォルニア燃料電池パートナーシップのレポートの和訳を参照)、日本は東京、名古屋、大阪、福岡の都市圏に100箇所の整備(イワタニさんのプレゼンを参照)目指しています。



燃料電池は効率の高い発電機ですので、EVの航続距離を伸ばしながらも、排出量がゼロなエコカーを目指して開発されてきました。航続距離が長い場合には、燃料電池の方がシステムコストが安くなることが理由です。(トヨタさんの資料経産省の資料を参照)ただし、車用に使われている高分子型の燃料電池は水素以外の燃料を使用できないことが課題で、水素インフラが必要なことが大きな実用化への障壁になってきています。現在はリース販売が主で、カリフォルニア州(LA都市圏が中心)では個人向けリースも月額600ドル程度で可能です。(こちらにリストあり)私も分野柄殆どの車に乗ったことありますが、HondaのClarityなんかは非常に乗り心地の良い完成度の高い車で、加速性能も良いのでセカンドカーとしてだったら使ってみてもいいなぁと思うレベルまでの完成度があります。(Hondaのリースサイト)このClarityは2008年に一般向けにリース開始したのですが、最初のお客さんは東京のホンダ本社でAsimoがお迎えするというオマケ付でした。



現在は、マーケティング理論的には完全に初期の「イノベーター」が興味本位で使っている段階です。2015年にはカリフォルニアで1万台程度の普及を目指すということですが、これでもLA都市圏に約550万台の車があることを考えると、0.1%程度。日本は普及初期に10万台という目標はありますが、現実には数万台が限度と考えられるのでこれも四大都市圏の車の台数合計が1700万と考えると0.1%程度。(ざっと統計から見積もって東京から30km圏内で約800万台、愛知が約400万台、大阪が約300万台、福岡200万台。日本全体では5900万台なので、四大都市圏で29%程度)まだまだ、向こう5年くらいはイノベーターにしか渡らない商品かなと思います。



さて、このイノベーターからアーリーアダプターやアーリーマジョリティーへ、つまり数万台から数十万、数百万と増やしてゆく中で重要になっていくのが下記の2点。この2つが解決されないのであれば、燃料電池自動車は「エコの本命」とは呼べない厳しさがあると思います。

1.水素の製造
「水しか出さない究極のエコ」と言っているものの、実際には化石燃料から水素を作る過程で二酸化炭素が出てしまうので、これはマイナスです。製鉄所などで発生する副生水素を使用する方法ですと、一応リサイクル利用なのは環境負荷は掛からないのでOKですが、この生産量は工場の生産と共に変化するので、大規模普及のためには、他の方法も必要になります。副生水素は、石油化学業界から72億Nm3 供給可能というデータを元に、水素自動車の年間水素消費量700Nm3 として考えると数十万台までは副生で十分に賄えることにはなります。究極のエコにするためには、太陽光や風力で水を電気分解するのが理想ですが、都市ガス改質などの方法に比べて価格で負けてしまうのが難点です。光触媒を使っての水素製造などのイノベーションが求められているのは、それが理由です。この部分は2020年以降の普及へ向けて凄く重要な訳です!下の写真は米国マサチューセッツ工科大学のスピンオフ、Sun Catalytixの光触媒水素発生。(ちなみに、現在の水素ステーションの水素源についてはイワタニさんのページをご参照ください)



2.プラチナ低減

燃料電池にはプラチナ(白金)が電極に使用されていて、価格が下がらない大きな要因になっています。プラチナの価格変動は大きなリスクになる要素で、ここ20年のアップダウンを見てもお分かりのとおり、値段はグイグイと上がっています。さらに、プラチナは南アフリカが75%、2位のロシアも含めると88%の生産を占めている極めて「危険」な資源なので(資料)、水素使用で石油からの脱皮を図っても別のリスクを抱えることになります。また、プラチナは使用量が上がると価格も上がるという「規模の経済」とは逆の動きをしますので、燃料電池自動車が大量に普及する際のプラチナ価格はグイッと上がる可能性があって、結局台数を出しても価格下がらずという結果になる可能性は大いにあります。


と、色々と現時点としてはエコカーとしての課題が多いのが燃料電池自動車です。今の技術レベルやインフラ整備の大変さを考えると、たしかにハイブリッドや電気自動車の方が魅力的ではあります。一方でポテンシャルは無限大の技術なだけに、どこまで技術が伸びるかに期待したいとこでもあります。